兵庫県加古川市唯一の酒蔵・岡田本家。
かつて大手メーカーの委託製造を担い、近年あらためて自社ブランド「盛典(せいてん)」を軸に酒造りを進めている蔵だ。
今回、蔵を訪ね、代表・岡田さんに話を伺った。
そこから見えてきたのは、近年の気候変動による酒造りの変化、そして「飲み続けられる酒」を目指す、等身大で誠実な酒造りだった。
■米が溶けない──近年の酒造りの現実
「今年も、やっぱり米が硬いですね」
話は、今年の新酒の出来栄えから始まった。
近年続く高温の影響で、酒米が“溶けにくい”状態が続いているという。
通常であれば、浸漬時間を少し伸ばせば水分吸収率は上がる。
しかし今年は、時間を延ばしてもほとんど吸わない。
「吸わない米は、結果として溶けない。だから粕が多く出る」
これは岡田本家だけの話ではなく、多くの蔵が直面している課題だという。
■度数を下げる、という選択
米が溶けない。原料米の価格も上がっている。
そうした状況の中で、いま多くの蔵が選択しているのが「アルコール度数を下げる」ことだ。
「16度を15度にするだけで、仕込み量は全然違ってくる」
しかも15度程度であれば、飲み手はほとんど“薄くなった”とは感じない。
むしろ「軽くて飲みやすい」と好意的に受け取られることも多い。
「今の時代、飲みやすさはすごく大事やと思います」
■「原酒」より「生酒」──言葉が持つ印象
かつては“良い酒”の代名詞だった「原酒」という言葉。
しかし今、若い世代には「きつそう」という印象を持たれることもある。
「最近は“生酒”って言葉のほうが、印象がええんですよ」
同じ酒質でも、言葉ひとつで伝わり方は変わる。
酒造りだけでなく、“どう伝えるか”もまた、今の蔵に求められている仕事だ。
■盛典というブランドは「代表の今」
「これが盛典の味です、と言い切れるものは、まだないですね」
岡田さんはそう率直に語る。
現在の「盛典」は、かつてのレシピをなぞるものではない。
「盛典の名前を継いで、いま自分が“いいと思う酒”を造ってる、という感じです」
基本はスッキリ系。
香りは華やかすぎず、食事の邪魔をしない酒。
「一杯目は香りのある酒がいい。でも、何杯も飲むなら、しんどくない酒がいい」
酒飲みとしての実感が、そのまま酒質に反映されている。
■酒は、米よりも水が決める
「酒は3割が米、7割が水。水の影響は、めちゃくちゃ大きいです」
加工すれば水質を揃えることもできる。
けれど、それをやりすぎると「どこで造っても同じ酒」になってしまう。
「それやったら、地酒やないですからね」
土地の水、土地の米、土地の蔵。
その組み合わせがあるからこそ、日本酒は面白い。
■一番神経を使う工程は「麹」
「一麹、二酛、三造り、って言いますから」
中でも最も神経を使うのが麹造り。
狙った水分量に、1%単位で合わせる。
「ここが狂うと、後の工程全部に影響します」
30kg袋の米を、すべて10kgずつに量り直す。
効率は決して良くないが、味を安定させるための手間を惜しまない。

■最後に
早稲(わせ)品種の「兵庫夢錦」で醸した「盛典 神吉」が新酒(生酒)として12月に発売になった。
柔らかい口当たりで、甘味のある華やかな香りが口一杯に広がっていく。杯が進む。美味い。
今年、酒蔵の冷蔵設備を充実させた。これからの日本酒の仕上がりが楽しみだ。
パソナグループとの協業で古酒事業に取り組んでいる。また、酒粕焼酎の開発にも着手。今回のインタビューに蔵の”いま”と”これから”が滲んでいた。
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文/藤原淳