日本酒で登る山 日本酒にはどうして山の名前が多いの?

このBLOGは山好きのスタッフが日本の自然と日本酒についてのトピックを、酒蔵さんに教えていただきながら、みなさんにお伝えしていくシリーズです

山の名前と日本酒

私は登山が趣味で、飛騨や信州へよく山登りに出かけます。下山後に現地の地酒専門店に飛び込んでその土地の地酒を買って、仲間と宴会をするのは至福の時!時には、登る前にお酒を買って、わざわざ酒瓶を担いで山を登り、山小屋やテントで飲むことも。

みなさんご存じのように、日本酒には山の名前がついているものがたくさんあります。ぱっと思い浮かぶお酒はありますか? 日本を代表する100の山「日本百名山」の中でも日本酒の銘柄として使われている山が40くらいあるそうです。

私が登った信州の百名山の中で、よくいただくお酒では「雨飾山」(長野県・新潟県 雨飾山)のように山の名前がそのまま使われているものと、「大雪渓」(長野県 白馬岳)のように山を象徴する名前でイメージさせるお酒があります。

山の名前のお酒が多くあるのは、山の近くで日本酒が作られていることの証しでもあります。登山の拠点となるふもとの村では必ずといっていいほど田んぼの広がる風景があり、美しい川が流れています。山の雪解け水が伏流水となり、清流に変わり、田を潤して美味しい米ができます。さらにそれらが杜氏の手にかかると銘酒となるというわけです。涼しい山の気候、寒暖差なども美味しいお酒をつくるためには大切な要素でしょう。

兵庫の名峰、雪彦山(せっぴこさん)

美のさと うまし酒の地元、兵庫県にも山の名前がついたお酒があります。雪彦山(せっぴこさん)という壺阪酒造(創業1629年)が造っているお酒です。

雪彦山は兵庫県の北部にあり、標高900mほどの山ですが、実はこの山、岩峰するどいロッククライミングの名所なのです。雪彦山に来れば、遠くからでも岩肌にかじりついているクライマーとそこから伸びるロープを見ることができます。

この知る人ぞ知る雪彦山がなぜ、お酒の名前になったのか、壺阪酒造の24代目当主である壺阪社長にお話をお聞きすることができました。

山岳信仰と日本酒

壺阪酒造は、よりよい水を求めて1805年に現在の酒蔵がある夢前町に移転してきました。当時は雪彦山で修行をするために全国から修験者(山伏)が集まってきたそうです。酒蔵は雪彦山へ向かう途中の道沿いにあり、修行を終えて帰ってくる修験者の記念のお土産として、「雪彦山」というお酒を売り出したのが始まりとのこと。

そういえば「八海山」「立山」「白山」など山岳信仰で有名や山の銘柄の日本酒がたくさんありますね。私がロッククライミングの緊張感から解放され、下山後にお酒をいただくように、昔の山伏さんたちも厳しい修行を終えて、打ち上げをしたりウキウキした気分で土産のお酒を買っていたのかもしれませんね!

霊山の地元では山から湧き出る伏流水で酒を造る蔵元があり、歴史は文化の中で地元の人や参拝者に愛されてきたのだと言えるでしょう。

山の名前のお酒は「地酒」

江戸時代に灘や伏見で日本酒が盛んに作られるようになってからは、その酒が樽詰めされて全国に出回るようになりました。それに対して、灘や伏見以外で作られた地元の酒を「地酒」と呼びます。壺阪酒造いわく、地酒は地域の人やそこを訪れた人のみがいただくものであり、その土地を象徴する山や場所の名前を付けられていることが多いとのこと。日本酒の名前として、固有の地名を商標登録することは現在では難しくなっており、山の名前のついたお酒は古くから地域に根差した銘酒が多いだろうとも教えていただきました

「地酒」をお取り寄せ

山の名前のついたお酒や地酒は、その土地の気候風土に培われてできるものなので、現地の酒蔵や地元の酒屋で出会って飲むことができればベストです。とはいっても、なかなかそこまで行く機会がない、という方には手軽にインターネットで「地酒」のお取り寄せができるようになりました。

自分の登った山、憧れの山、旅したことのある土地などの地酒をとりよせ、その場所に想いをはせながら美味しい日本酒をいただくのもいいですね!

地酒や生酒を酒蔵からお取り寄せするなら、美のさとうまし酒       

雪彦山の酒蔵、壺阪酒造株式会社

文/ Etsuko Tomari