兵庫県明石市の造り酒屋『西海酒造』に10月末日、山田錦を収穫したタイミングでインタビューをお願いした。『西海酒造』は酒米の栽培から日本酒の醸造、販売まで自社でおこなっている。
「今年は、本当に最後まで気が抜けませんでした」
そう語る蔵元の言葉から、今回のインタビューは始まった。
猛暑と少雨に見舞われたこの一年。
酒米づくりから酒造りまでを一貫して行う現場では、自然との対話がより一層シビアなものになっていた。
■ 高温・少雨のなかで踏ん張った酒米
今年の稲作を振り返ると、最も大きな要因は「雨の少なさ」だったという。
「この地域は川がなく、ため池頼み。
水を自由に使えるわけではないので、稲にとってはかなり厳しい年でした」
本来であれば、昼間に温まった水を捨て、夜に冷たい水を入れ直す“掛け流し”ができれば、稲のストレスは軽減される。
しかしそれは、この土地では現実的ではない。
それでも今年は、酒米・山田錦が最後まで倒れずに耐えてくれた。
「山田錦が、踏ん張ってくれた。
それが一番大きかったですね」

■ 倒れると酒米はどうなるのか
酒米づくりで最も避けたいのが「倒伏(とうふく)」だ。
稲が倒れると、葉が重なり乾きにくくなり、品質に大きな影響が出る。
「山田錦は、濡れた状態が3日ほど続くと発芽してしまう。
発芽するとデンプンを使ってしまうので、酒米としての質はどうしても落ちます」
見た目には米になっていても、中身は別物。
だからこそ、倒れない稲をつくるための管理が重要になる。
■ 酒米づくりは「第4節」が勝負
酒米づくりで重要なポイントのひとつが、稲の「第4節」が伸びるタイミングだ。
「この時期に伸びすぎると、倒れやすくなる。
でも、窒素を抑えすぎると今度は実入りが悪くなる」
肥料を与えすぎず、与えなさすぎず。
天候と稲の状態を見極めながら、毎年判断を変えていく。
「条件は毎年違う。
だから毎年が、同じようでまったく違う仕事なんです」
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■ 酒の味は、米だけで決まるわけではない
ワインの世界では「味の9割はブドウで決まる」と言われる。
では、日本酒はどうなのか。
「正直に言うと、米の出来が酒に与える影響は1〜2割くらいだと思っています」
意外な答えだった。
「もちろん米は大事。でも、それ以上に大きいのは“麹”です」
特に山田錦は、麹にしたときの“さばけ”が非常に良い。
粒が均一にほぐれ、麹菌がまんべんなく回るため、酒造りの安定性が高まる。
「山田錦で麹をつくると、正直“楽”なんです。
逆に言うと、他の品種で同じことをやるのは、相当な腕が要ります」
■ 水の違いは、どこまで影響するのか
「宮水は硬い」「伏見の水は柔らかい」
よく聞く話だが、現場の感覚は少し違う。
「昔ほど、水の違いが味に大きく出るとは感じていません」
現代の日本酒は、低温で丁寧に管理される。
水の影響が大きいのは発酵の初期段階までで、その後は米と麹の影響が支配的になるという。
「最終的には、どんな酒を目指すか。
水も酵母も、すべて“選択”の結果ですね」
■ 毎年同じ味じゃなくていい
小さな蔵では、大手のように毎年同じ味を再現することは難しい。
「タンクの本数も限られていますし、条件も毎年違う。
正直、全く同じ味は無理です」
それでも、目指す方向は変えない。
「今年は少し重たいな、今年は軽やかやな、という違いはある。
でも“うちの酒らしさ”は変わらない」
均一さよりも、その年のベストを出すこと。
それが、この蔵の酒づくりだ。
■ 表示できない「こだわり」もある
農薬や肥料に関する表示は年々厳しくなっている。
「実態としてはほとんど使っていなくても、“無農薬”とは書けないことも多い」
現在は「特別栽培」という枠組みの中で、
レンゲや米ぬかを使い、土の力を引き出す農法を続けている。
「窒素を入れすぎないから、病気も出にくい。
今年は、何も使わずに8俵とれました」
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■ 米を知ることは、酒を知ること
自分で育てた米は、見ただけで状態がわかる。
「この米は日照りが強かったな、とか、
この年は硬い米になるな、とか」
それは精米の工程にも直結する。
圧のかけ方ひとつで、割れやすさも変わるからだ。
「全部わかっている米で酒を仕込めるのは、やっぱり強いですね」
■ 最後にコントロールできないもの
すべてを把握していても、思い通りにならないものがある。
「酵母だけは、最後まで言うことを聞いてくれません」
だからこそ、毎日向き合い、微調整を重ねる。
「日本酒は、結局“人の仕事”。
そこが面白いし、難しいところですね」
■収穫した山田錦(新米)の新酒は…。
今回収穫した山田錦で醸した新酒「空の鶴」は、1月末~2月初の発売。今から楽しみである。
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文/藤原淳